MOSRA(原子炉解析のためのモジュラーコードシステム; Modular System for Reactor Analyses)

原子力機構では、従来のSRACに代わる決定論的手法コードシステムとして、MOSRA (Modular System for Reactor Analyses)の開発しました。MOSRAは、炉定数ライブラリ作成から多次元核熱結合炉心燃焼計算までの解析に必要な機能を有するデータ及びプログラムのモジュール群として構成され、ユーザーは各自の用途に最適なモジュールを選択・組み合わせることで解析を進めます。従来のSRACのような統合型の大規模コードと異なり、小規模なモジュールの改良や追加により、機能の拡張を容易に行うことができ、核データベンチマーク、多様な炉心の実験解析、新型炉の核設計、設計誤差評価など、多様な用途に即応することができます。MOSRAのモジュールを使用することで、多次元核熱結合炉心燃焼計算、多次元中性子輸送・拡散計算、3次元感度解析など、SRACでは実現できなかった広範囲な解析が可能となりました。

1. システム構成モジュール

MOSLIB

最新の核データ(JENDL-3.3、JEFF-3.1、ENDF/B-VII.0)に基づく多群断面積ライブラリで、最適な群構造は現在も検討中ですが、これまでに10-5eV~20MeVまでの200群断面積を収納するMSRAC用のライブラリ群を新たに作成しました。このライブラリは、荷電粒子反応等を主要な生成パスとする核種生成量評価や感度解析に対応するため、(n,p), (n,α),(n,2n),(n,3n)等の断面積も収納しています。

MOSRA-SRAC

SRAC2006の衝突確率法に基づく格子計算機能を1つのモジュールとして独立させたものですが、以下のような改良を加えて一層の高精度化と高機能化を図っています。主な改良点を以下に示します。省略して「MSRAC」と呼ぶこともあります。

  • ライブラリの収納内容と構造の見直し (暫定200群)
  • 核分裂スペクトル:入射エネルギー依存マトリックス
  • 荷電粒子反応等の断面積扱い(燃焼計算や反応率計算)
  • Cut-offエネルギーとPEACO下限の分離(Cut-off以下のエネルギー領域まで超詳細群により実効断面積を計算します。)
  • 入力データの簡素化 (選択肢の最適化)
  • 共鳴計算機能の強化 (Stoker-Weiss法など)
  • PDSメンバー長制限に起因する制限等の緩和 (核種名U05→U02350、物質数、燃焼ステップ数など)
  • 燃焼計算機能強化(PC法導入、ボロン履歴追従等)
  • 感度解析用微視的断面積のPDSファイル出力

MOSRA-PonPon

これはモジュール間のインターフェイスデータファイル(PDS)を管理するモジュールです。PDSファイルのメンバー名を従来の8文字から最大16文字まで拡張したことにより、従来のSRAC2006コードで直面していた多くの制約がなくなりました。また、計算機のメモリ容量に応じて、ファイルアクセスとインコアアクセスを自動的に切り替えることもできます。MOSRA-PonPonの開発により、モジュール間の高速データ交換が容易に実現できるようになり、複雑な核熱結合炉心燃焼計算などもできるようになりました。

MOSRA-Macron

MSRACによる格子燃焼計算による断面積データから、核熱結合計算用のフィードバック断面積を作成します。燃焼度、減速材温度、燃料温度、ボイド率、可溶性毒物濃度、制御棒挿入/引抜、Xe135濃度など、多様な条件の断面積を供給します。

MOSRA-Hydro

独自に開発した1次元多チャンネル拡張均質流モデルに基づく熱水力計算モジュールです。単純なモデルですが単チャンネル内のボイド率分布はより詳細なモデルを採用するTRAC-BF1コードの結果とほぼ一致し、1000チャンネル程度のBWR炉心でも数秒で計算を終えることができます。

MOSRA-Citation

有限差分法に基づく多次元拡散計算モジュールで12種類の幾何形状に対応することができます。また、付属のユーティリティ(More-MOSRA)により、反応率編集、一次及び厳密摂動計算、1点炉動特性パラメータ計算等を行うことができます。

MOSRA-Light

多項式展開拡散ノード法に基づく3次元(X-Y-Z)炉心計算モジュールです。20cm程度の粗メッシュを使用しても高い計算精度を有するので、大型炉に対する高速計算性能にすぐれています。また、付属のユーティリティ(More-MOSRA)により、反応率編集の他、粗メッシュノード法に適用可能な一次及び厳密摂動計算、1点炉動特性パラメータ計算等を行うことができます。

MOSRA-Fondu

核熱結合炉心計算において、燃焼度と線出力による2次元テーブル内挿により、燃料平均温度を計算します。

MOSRA-FCBT1

多次元核熱結合炉心燃焼計算を行うフレームコードです。フレームコードは、複数のモジュールを統合・制御するもので、モジュールの交換、新規開発、廃棄等により、新型炉等の設計計算に柔軟に対応することができます。本フレームは、入口流量・制御棒駆動・可溶性毒物濃度等による臨界調整、燃料シャッフリング、Predictor-Corrector法、Haling計算等の高度な機能を実装しています。

PARTISN+

米国のロスアラモス国立研究所が開発した並列多次元Sn輸送計算コードPARTISN4.0に、MOSRA-SRACと連携して摂動計算、一点炉動特性パラメータ計算、反応率編集計算等をできるようにしたものです。

MOSRA-SAGEP

有限差分法に基づく拡散コードDIF3Dをソルバーとする3次元炉心感度解析モジュールです。15種類の格子形状に対応するMOSRA-SRACが出力する感度解析用の均質化微視的断面積データを使用して、一般化摂動理論に基づき、中性子増倍率、反応度、反応率比等に対する断面積感度係数を計算することができます。

2. 実験解析への適用例

MOSRAのモジュールやフレームコードを利用してさまざまな解析が可能になりました。その一部を以下に紹介します。先ず、炉心計算モジュールとしては、 表1 に示すものが利用できます。

表1: 炉心計算モジュール

MOSRA-CITATION MOSRA-Light MOSRA-SAGEP PARTISN+
静特性、拡散、有限差分 静特性、拡散、ノード法(NEM) 静特性感度解析、拡散一般化摂動、有限差分 (DIF3D) 静・動特性、Sn輸送(DANTSYS後継)

12幾何形状:

  • 1-D(X, Rc,Rs)
  • 2-D(X-Y, R-Z, R-\(\theta\), \(\Delta\), 六角)
  • 3-D(X-Y-Z, R-\(\theta\)-Z, \(\Delta\)-Z, 六角-Z)

3-D(Z-Y-Z)

(1-D/2-Dは反射境界で可)

6幾何形状:

  • 2-D(X-Y, R-Z, \(\Delta\))
  • 3-D(X-Y-Z, R-\(\theta\)-Z, \(\Delta\)-Z)

9幾何形状:

  • 1-D(X, taZ, Rc, Rs)
  • 2-D(X-Y, R-Z, R-\(\theta\))
  • 3-D(X-Y, Z, R-\(\theta\)-Z)

一次・厳密摂動

動特性パラメータ

核熱結合対応

一次・厳密摂動

動特性パラメータ

反応率編集

一次・厳密摂動

一次・厳密摂動(高次異方性散乱)

動特性パラメータ

反応率編集

図1 は3次元Sn輸送計算コードを使用した臨界集合体TCAの解析例を示したものです。従来の拡散コードによる計算では臨界水位より高い燃料部(ドライラティス領域)を含めると反復計算が収束しなくなるという問題があり、やむなく2次元計算モデルで対応していました。現在では、3次元輸送計算(P3S16)により、連続エネルギーモンテカルロコードとほぼ同等の計算精度で実験解析ができるようになりました。

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図1 3次元Sn輸送計算による臨界実験解析の例

図2 はTRX炉の中央で測定されたU238捕獲反応とU235核分裂反応の反応率比(C8/F9)に対する断面積感度をMOSRA-SRACとMOSRA-SAGEPの組み合わせにより解析した例です。着目する測定項目について、計算値と測定値に不一致が見られる場合など、このような感度解析を行うことにより、どの核種のどのエネルギー領域のどの反応断面積に原因が考えられるかといった分析ができます。当グループではTCAやFCAといった臨界実験装置を活用し、このような実験解析を行ってJENDL-4の開発に貢献しています。

../_images/TRX_Sagep.JPG

図2 熱中性子炉の断面積感度解析の例

3. 核熱結合炉心燃焼計算による新型炉設計

図3 はMOSRAのモジュールを使用した核熱結合炉心燃焼計算の仕組みを示したものです。MOSRAのモジュールは、単独で実験解析などに利用できるほか、フレームコードに組み込んでこのような複雑な計算にも適用することができます。このような汎用体系で核熱結合炉心燃焼計算に対応可能なコードは原子力機構でもMOSRAのみです。

../_images/CoreBnup.JPG

図3 MOSRAによる核熱結合炉心燃焼計算のしくみ

図4 のような六角燃料集合体から構成されるBWR型炉心を想定し、下部から挿入される2種類の制御棒(バンクA及びB)で臨界調整をした場合の核熱結合計算の結果の一例を 図5 に示してあります。炉内の流量分布、ボイド分布、出力分布などを各燃焼時点で評価することができ、この機能を利用して新型炉の設計計算などに利用されています(図7参照)。

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図4 六角燃料集合体型BWR炉の核熱結合計算体系

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図5 核熱結合計算結果の一例

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図6 燃焼計算フレームの機能と低減速軽水炉設計への適用例

4. 連続エネルギーモンテカルロコードとの連携計算

MOSRAのモジュールは、連続エネルギーモンテカルロ法コード(MVP)などとも連携することができます。図8はMVPとMOSRA-Hydroを結合した非均質BWR燃料集合体の核熱結合計算の例です。今後は、このような新しい計算モデルの導入により、従来はできなかった解析も可能となり、計算機シミュレーションによる設計や物理現象の観察が可能になるものと期待されます。

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図7 連続エネルギーモンテカルロコードMVP による核熱結合計算

5. 関連発表

MOSRAの開発またはMOSRAを使用した最近の研究

  • 奥村 啓介、 久語 輝彦、 中野 佳洋、 長家 康展、小嶋 健介、 千葉 豪、 岡嶋 成晃:「モジュラー型炉心解析コードシステムMOSRAの開発」, 日本原子力学会, 2008年春の年会,,L46 (2008年3月26~28日,大阪大学 吹田キャンパス)
  • 谷和洋、奥村啓介:「連続エネルギーモンテカルロコードMVP による核熱結合計算」, 日本原子力学会, 2006年春の年会,M26 (2006年3 月24~26日,日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター)
  • 中野佳洋、秋江拓志、奥村啓介、大久保努、内川貞夫, “高転換型革新的水冷却炉(HC-FLWR)の炉心設計, JAEA-Research 2008-006 (2008).
  • 小嶋健介、奥村啓介、久語輝彦、岡嶋成晃:「軽水炉MOX 炉心の臨界量経時変化に対する核データ起因誤差評価;(2)MISTRAL 試験の評価」, 日本原子力学会, 2008年秋の大会,A22 (2008年9月4~6日,高知工科大学)