原子炉核設計の新たな予測精度評価方法

昨今、将来の原子力エネルギー利用に関して、種々の新型炉の概念が提唱され、設計・開発研究が実施されています。 これら原子炉を開発・実用化するには、多様な核特性を精度よく予測・評価する必要があります。 実炉の核的性能を確認するための有力な手段である実規模モックアップ実験は、 既存施設を用いて行い得る実験内容に限界があり、また新規施設を建設して実験を行うには多額の経費が必要となることから、実施が困難な状況にあります。 このような困難を克服するため、実規模モックアップ実験の実施が困難な状況であっても予測精度の評価・向上が可能となる不確かさ評価技術に関する研究を進めています。

1. 核設計予測精度評価技術の改良(拡張バイアス因子法)

単一のモックアップ実験を活用して実験値と計算値の比較結果を反映することによって設計値の予測精度を評価するこれまでのバイアス因子法に対し、 複数の実験からなる実験群をモックアップ実験の代替として利用するという独創的な発想により、 実規模モックアップ実験の実施が困難な状況であっても予測精度の評価・向上が可能となる拡張バイアス因子法を創出しました。[1]

この拡張バイアス因子法では、 実験値の分散を考慮しつつ、設計値と実験解析値に含まれる断面積と解析手法に起因する共分散を用い、 設計炉心と実験群の相関が最大になるように実験群を選択・活用して、設計値の予測精度を向上させることが可能です。 実験群の活用法として考案したアルゴリズムは、 以下の図に示すように、従来バイアス因子法、先に提案された複数の臨界実験を活用する一般化バイアス因子法、 さらに実験結果の活用を行わない元の設計値の予測精度評価を包含しています。

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図1 拡張バイアス因子法と他手法との関係

拡張バイアス因子法は、設計炉心と実験群の相関が最大になるように各実験に対する重みを与えます。

実験結果の活用を行わない場合は、実験群を活用しません。これは各実験に対する重みにゼロを与えたことと同値であり、拡張バイアス因子法では、各実験に対する重みの組合せの一つとして考慮されています。

従来バイアス因子法では、実験群のうちのある一つの実験のみを活用します。これは活用する実験の重みのみに1を与え、かつ、その他の実験に対する重みにゼロを与えたことと同値であり、拡張バイアス因子法では各実験に対する重みの組合せの一つとして考慮されています。

一般化バイアス因子法では、各実験に対する重みの総和が1になるという制約の下に、設計炉心と実験群の相関が最大になるように各実験に対する重みを与えます。これは、拡張バイアス因子法では各実験に対する重みの組合せの一つとして考慮されています。

以上のことから、例えば大きな誤差が含まれる実験結果を用いると、従来バイアス因子法等では予測精度を必ずしも設計値から向上させることができませんでした。これに対して、拡張バイアス因子法は、従来バイアス因子法及び一般化バイアス因子法に比べて予測精度を必ず向上させることができます。これは、目標精度を満足するために選択・活用する実験の個数を適切な量まで削減することができることを示しています。

2. 拡張バイアス因子法の有効性

複数の実験からなる実験群を活用することによって設計値の予測精度を評価するために、 これまで見過ごされてきた実験値間及び実験解析値間の共分散の現実的な評価法として、 実験誤差の各要因の詳細な分析に基づき要因毎の相関を考慮した実験値間の共分散の評価手法及び断面積感度係数を活用した試験燃料板等の重量及び組成比のばらつきに起因する実験解析値間の共分散の評価手法を開発しました。 これらにより、複数の実験からなる実験群の実験誤差や解析誤差に関して、異なる実験値間や異なる炉心間の共分散を現実的に評価する技術的枠組みを構築しました。

この枠組みに基づき、日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速炉臨界実験装置(FCA)において取得された複数の体系の実験データを活用し、実炉設計に拡張バイアス因子法を適用して同法の有効性を実証しました。また、設計値の誤差要因を分析することにより、拡張バイアス因子法による予測精度向上のメカニズムと各々の実験データの有効性を明らかにすることが可能となりました。[2] この結果、目標精度達成のための新規実験の要否に関する判断を行い、実験誤差の低減を図るために工夫が必要となる実験や解析手法誤差が大きく解析手法に改善の余地がある実験等を抽出することが可能となりました。

以上のことから、拡張バイアス因子法の適用は、新型炉の開発・実用化にとって効果的な開発計画の立案に寄与するとともに、時間的・経済的効果の改善に寄与するものと期待できます。

参考文献

[1] T. Kugo, T. Mori and T. Takeda, “Theoretical Study on New Bias Factor Methods to Effectively Use Critical Experiments for Improvement of Prediction Accuracy of Neutronic Characteristics,” J. Nucl. Sci. Technol., 44, No.12, pp.1509-1517 (2007).

[2] T. Kugo, M. Andoh, K. Kojima, M. Fukushima, T. Mori, Y. Nakano, S. Okajima, T. Kitada, T. Takeda, “Prediction Accuracy Improvement of Neutronic Characteristics of a Breeding Light Water Reactor Core by Extended Bias Factor Methods with Use of FCA-XXⅡ-1 Critical Experiments,” J. Nucl. Sci. Technol., 45, No.4, pp.288-303 (2008).