ジェイ・シー・オー社事故の炉物理的検討 起こったウラン核分裂の数と,冷却水抜き効果の評価,および関連する諸特性値(日本原子力学会炉物理部会員による検討)

1999年11月11日 「以下の検討掲載の趣旨」

東海村で発生したJCO社の臨界事故からすでに40日が経過した. この間,われわれ炉物理部会の中では,公衆の被曝(ひばく)見積 もりにとって基本となる,事故当日のウラン核分裂の数を追及して 懸命の検討がなされた.さらに,臨界現象を止める目的で事故の翌 朝に行われた冷却水の除去作業だが,これがどの程度の量的な効果 があったのか,それを客観的に評価する努力もなされた. ここに数名の研究者がその内容を数値結果と共に示し,この臨界 事故の性質を明らかにする.解析に用いられたデータあるいは特 性値も載せられている.これによって,事故のメカニズムが明ら かになる一方,事故の詳細のうちでどんな情報が依然として未知 で決定困難であるかも理解されるであろう.

この種の公表には一般に二つの場合がある.当学会の会員全般に対する当部 会からの活動連絡と,一般公衆に対して専門家の見積もり努力をお知らせすることで ある.以下では,まず前者に重点がおかれ,専門的な技術用語を用いた説明となる点 ,了解して戴きたい.公衆に対する,より平易な解説はいずれ稿を改めて,用語解説 から出発して近日中に行うこととしよう.

ご覧のように,ここに示される各研究者の努力では,事故の直前および瞬間 の現場状況に関連する,入手困難なデータを補うために,何らかの工夫をしているので, それぞれの結論は工夫の内容に応じて少しづつ異なっているかもしれない.そのような差をそのままにして,あえてこれを公表する訳は,完全性を重視して貴重な時間を経過させるよりも,多少の不確定があっても早く公表して,社会不安の軽減に役立てるのが,我々専門家の社会的義務であると判断したためである.この意図を汲み取って戴きたい.それにしても,相互にかなりの一致がみられていることも確かである.

なおここ数日前より,現場のサンプル採取に基づく詳細な数量的報告が事故 調査委員会によって始められつつある.これと,ここで公表する理論計算の比較は, まだ始まったばかりである.事故調査委員会の算出結果はわれわれよりも詳細な測定 データが基礎にあることから,おそらく信頼性は高いものと思われる.しかし,その 結果が信頼できるとは言え,一通りの結果だけでなく,結果の食い違いも含めて, 他の複数の推論を同時に検討する事は,各量(例えば核分裂数)の性質や傾向を理解する上で意味があると,われわれは考える.すなわち,このような臨界事故は,さまざまの角度から検討することで理解が深まると考えられる.いずれにせよ,ここで示される内容は,現在のところ暫定的な性質が避けられないことをご理解の上,読んで戴くことをお願いする.

以上.

仁科 浩二郎
愛知淑徳大学 現代社会学部


Last update:99/11/16

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