本RPD172(1999.11.5) 全核分裂数の評価 3解析例 東京工業大学原子炉工学研究所 関本 博 [1] 中性子線量率測定結果より [1−1]中性子簡易計算と組み合わせて 測定値: 臨界事故発生地点から測定点までの距離:100m = R (図面上の読み) (もう少し短いという報告あり。この場合核分裂数はここで得た値より小さくなる) 測定線量当量率:4 mSv/h = 10^7 n/cm2*h = D (測定された中性子はすべて核分裂中性子と仮定) (臨界が持続していた間の平均値をこの値で近似) 反応持続時間:17 h = T これらの値より 計測中性子fluence = D*T = 2*10^8 n/cm2 = N 測定値の変化の仕方をみて少し大目に丸めている 中性子発生の時間的変化がはっきりしないので誤差は大きいかもしれない 中性子の体系からの漏れ(輸送計算): 濃縮度:18.9wt% ウラン濃度:360g/l 投入溶液量:46lと仮定 沈殿槽の半径:22.5cm 容器のSUS厚さ:0.3cm 容器まわりの冷却水厚さ:2.2cm そのまわりのSUS厚さ:0.3cm 温度:100℃(ここでの計算ではそれほど重要ではない) 計算:TWOTRAN円筒2次元計算(岡本(関本研M2)計算) PIJにて107群断面積を作成 その107群断面積をANISNで18群に縮約 縮約された18群断面積を用いてTWOTRANで2次元輸送計算を行なう 結果: 発生核分裂中性子に対して 高速中性子の漏れ:10.8 % = L 全中性子の漏れ:30.2% k-eff=1.019(この値はここでは直接必要なし) 空気による中性子の減衰: 核分裂中性子の空気中の減衰(線量当量として) ミクロ除去断面積(Eng.Com.Rad.Shild., Vol. 3, p.244): sigr(N)=1b, sigr(O)=0.98b よって空気のマクロ除去断面積:Sigr(air)=0.005m-1 これより減衰係数は A= exp(-Sigr(air)*R)=0.6 この値は後で原子力委員会より報告された測定結果(100m〜800m)と極めて良い一 致を示している。(資料第3-3-3号) 全核分裂数の導出: (1)建物の壁による中性子束の減衰が無い場合 導出式: nu*F/(4*pai*R**2)*L*A = N ここで R,L,A,N:既に定義した F:全核分裂数 nu:核分裂1回当たりに発生する中性子の数=2.5 pai:円周率 この式よりこの事故で生じた全核分裂数 F は1.55x10^18ということになる (2)建物の壁による中性子束の減衰を考慮した場合 建物の壁の厚さについて: 建物がいくつかあり、しかも壁厚は不明 ここではすべてを合計して10cm のコンクリートで近似する コンクリートの減衰効果(兵藤、放射線遮蔽入門、p. 130の図より読み取る): 10cm で0.4(この値は[1-2]の結果ともよい一致を示した) これよりこの事故で生じた全核分裂数 F は3.9x10^18ということになる ここでの一番不確かだと思われるのはLの値(容器や建物の形状等の不確かさによる) これについては次ぎの解析でも言及する [1−2]すべて輸送計算でおこなう(岡本(関本研M2)計算) TWOTRANにおける計算体系: 容器等は[1]と同じ 地上31mまで、半径120mまで空気層を入れる 地面はコンクリートで近似 建物壁を10m厚を半径1mの位置に2mの高さで入れる 高さ2mの位置に天井を10cm(厚すぎる?)のコンクリートで近似 沈殿槽(水層、SUSを含める。計算体系[1-1]に等しい) 壁、地面:コンクリートで近似 空気: N:4.07296x10^-5、O:8.90960x10^-6 (barn-cm-1) 地面をコンクリートで近似した。 この場合厚さを変えると空気における中性子の減衰率が変化する 空気における中性子の減衰は測定されており、[1-1]での値とよく一致 50mと100m地点での中性子線量率の比 φ50/φ100=(100/50)2exp(ΣR*(100-50))=5.14 この値に近くなるように地面の仮想コンクリート厚さを決めた: 表1.地面模擬コンクリート厚さの変化による空気中の中性子の減衰率の変化 (a) 中性子線量を求めた位置を地上1mとした場合 コンクリート厚 φ50/φ100 核分裂数 (cm) 0 4.55 6.00 x10^18 10 4.85 3.50 x10^18 20 4.88 3.69 x10^18 30 4.898 3.94 x10^18 40 4.90 4.17 x10^18 60 4.88 4.50 x10^18 100 4.81 4.90 x10^18 200 4.70 5.35 x10^18 (b) 中性子線量を求めた位置を地上2mとした場合 コンクリート厚 φ50/φ100 核分裂数 (cm) 10 5.07 3.51 x10^18 20 5.088 3.70 x10^18 30 5.094 3.95 x10^18 40 5.091 4.16 x10^18 60 5.03 4.47 x10^18 100 4.92 4.85 x10^18 200 4.79 5.27 x10^18 上記の表は壁コンクリート(10cm)を入れた値である。 全核分裂数: (1)壁コンクリートが無いとした場合 検出器位置を地上1mとすると(表1) 1.7x10^18 (地面コンクリート厚さ40cm) 検出器位置を地上1mとすると(表1) 1.6x10^18 (地面コンクリート厚さ30cm) (2)壁コンクリート(10cm)を入れた場合 検出器位置を地上1mとすると(表1) 4.2x10^18 (地面コンクリート厚さ40cm) 検出器位置を地上1mとすると(表1) 4.0x10^18 (地面コンクリート厚さ30cm) [2]溶液分析結果より 核分裂生成物の放射能濃度、ウラン濃度及び16kgのウランを入れ臨界になったこ と(10月8日の事故調査対策本部の報告)が明らかになっているので、これらから 全核分裂数を導出する (しかし、本日の学会の原子力調査専門委員会で住田先生から必ずしも16kgすべ てがタンクに入れられたのではないらしい) ここで得られた核分裂数をF1とし、実際にタンクに装荷されたウランの量をx kg と すると、正しい核分裂数 F0 は当然 F0 = F1 * x /16 となる 次の表に20日後の測定結果をその他の値と結果を合わせてのせる。 今回の表では核分裂収率としては報告書に与えられている値を採用 表2.溶液中のFP放射能濃度測定値とそれらから求めた全核分裂数 T1/2 gamma 濃度 放射能 濃度 全核分裂数* day % g/l Bq/ml 個/l 記号 Th gamma B D F Zr95 64.02 6.52 215000 1.72E+15 1.87E+18** Mo99 2.75 6.074 43400 1.49E+13 2.17E+18 Ru103 39.26 3.029 177000 8.66E+14 2.34E+18 Ce143 1.377 5.963 Ce144 284.89 5.493 69100 2.45E+15 2.69E+18 Sr89 50.53 4.822 I131 8.0207 2.892 189000 1.89E+14 2.11E+18 Cs137 10983 6.183 1480 2.02E+15 1.88E+18 Ba140 12.752 6.207 531000 8.44E+14 2.31E+18 U 278.9 ** Zrの値が小さいのは放射線測定のためのろ過で一部フィルターに付着した(資料 のコメント)ためかもしれません。 全核分裂数の導出方法: 導出式: gamma ・ F・ exp( - lammda ・ T) = D ・ 1600 / 278.9 ここで T = 20 days:発生から測定までの時間 lammda = 0.693 / Th:崩壊定数 なお D は D = 1000B / lammda で計算する 結果は表2.に示された通り [3]追加 <<<補正が簡単なので核分裂数10^18 として話しを続ける>>> 上の結果に合わせるには適当に定数倍すればよい I-131は2.9x10^16個発生している。 これはI-131の崩壊定数を10^-6 sec-1として 2.9x10^10Bq=29GBq となる。 甲状腺に対する年間摂取限度は1MBqですからその3万倍できたということになります。 Cs-137 は6.2x10^16個発生している。 これはCs-137の崩壊定数を7.3x10^-10sec-1として 4.5x10^7 Bq = 45MBq となる。 年間摂取限度は3.6MBqですからそのおおよそ10倍できたということになります。 1回の核分裂当たり200MeVのエネルギーを発生しますので 全発生エネルギー:200 x 10^18 MeV = 2x10^20 x 1.6x10^-13 J = 3.2x10^7 J = 8.9kWh 17時間続いていたとすると520Wということになる。 [4]考察 ○ 結果のまとめ:おおよその全核分裂数は [1−1] 壁厚 0 : 1.6x10^18 壁厚 10cm : 3.9x10^18 [1−2] 壁厚 0 : 1.6x10^18 壁厚 10cm : 4.0x10^18 [2] 2.2〜2.7x10^18 ○ なお測定点までの距離R が80m だという報告があるが、この場合だと上記の結果は ((1/100^2)exp(-0.005x100))/((1/80^2)exp(-0.005x80)) = 0.58 倍されねばならな い。 この場合の結果は以下のようになる。 [1−1] 壁厚 0 : 0.9x10^18 壁厚 10cm : 2.3x10^18 [1−2] 壁厚 0 : 0.9x10^18 壁厚 10cm : 2.3x10^18 と変更されるべきである。この場合[1] と[2]との違いは小さい。 ○ [1−1]と[1−2]の結果は予想以上によく一致した ○ [1]の結果では壁厚の仮定でかなり値が変わる。 これを調節すると[1]と[2]の結果を一致させることすらできる [1] と[2]との違いは初期バーストの大きさでも説明できるので、壁厚の評価 等を精密に行えばバーストの値もある程度予測できるかもしれない。 上記の値を信じるとすれば、[1]からは 2.3x10^18、[2]からも2.3x10^18程度の 値が得られバーストの値は小さかったことになる。 バーストの大きさはCe143の値が測定されていれば、Ce144と比べることによいかなり 正確に予測できたであろう。 関本 博 東京工業大学原子炉工学研究所 〒152-8550 東京都目黒区大岡山 2-12-1 Hiroshi SEKIMOTO Research Laboratory for Nuclear Reactors Tokyo Institute of Technology O-okayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8550, JAPAN Tel:+81-3-5734-3066 Fax:+81-3-5734-2959 E-mail:hsekimot@nr.titech.ac.jp http://www.nr.titech.ac.jp/‾hsekimot/