竹田RPD207(1999.11.16)

動特性解析および中性子線測定値による核分裂数評価

大阪大学大学院 工学研究科原子力工学専攻竹田敏一,山本敏久,北田孝典,左藤大介

1.計算の概要

 バースト時の放出エネルギーおよび核分裂数は,一点炉動特性解析によって評価した。

 バースト以降の核分裂数は,100m地点での中性子線量測定値(0.45rem/h)から推定した。

2.計算条件

(1) 容器の形状

 計算体系はすべて円筒体系で行った。

以下に計算に使用した主な寸法を示す。

・溶解槽 高さ61cm,内径22.5cm,肉厚0.3cmのSUS

 底の部分のアールは考慮していない。

・溶解槽の外側に厚さ2.2cmの冷却水の層。高さは溶解槽の底面から35cmまで。

 冷却材を保持する容器として,肉厚0.3cmのSUS製円筒容器を模擬。

・容器の回りの空間は,上下,横方向ともに厚さ10cmの空気の層を模擬した。

(2) 事故時の溶液量および溶液濃度

 まず,遊離硝酸の濃度を0~4規定として実効増倍率をMVを用いて計算を行い,以下の結果を得た。

 規定 42リットルでのKeff 44リットルでのKeff 

 0 1.0586 1.0730

 1 1.0422 1.0561

 2 1.0257 1.0401 

 3 1.0083 1.0235

 3.5 0.9989 1.0145

 4 0.9902 1.0034

 1) 最終のタンク内の溶液の量は44リットル

2) 6杯目のバケツをすべてタンク内に入れた時点での溶液の量を7(バケツ1杯分)

 ×6(杯)=42リットルと仮定すると,この時点では未臨界であった

 3) 事故当時,7杯目のバケツの溶液を全量,一気に入れたとした。

 これらを考慮して,溶液の遊離硝酸濃度を3.5規定とした。

(3) 溶液の物性データ

 数密度計算に用いた情報は,ウランに関して「溶液1リットルあたり360gのウラン」

「ウラン濃縮度18.9wt%」の2つである。硝酸溶液密度は「摂氏20度の68wt%溶液で1.41g/cc」と水密度(約1g/cc)から内挿した。得られた数密度は,3.5規定の時

  U235:1.7433e-4

  U238:7.3859e-4

  O16:3.9153e-2

  N14:3.9336e-3

  H:5.4986e-2

になった。

(4) 温度反応度係数

温度に関する反応度として,溶液温度上昇によるドップラー反応度,および,溶液温度上昇による溶液密度減少に伴う体積膨張による反応度,の2つを計算した。

 (a) ドップラー反応度係数

  上記の数密度での無限体系での計算により算出(JENDL-3.2ベース)。

 計算にはRESPLAを用い,温度を300K~350K~400K~500Kと変化させ求めた。

  計算結果として,遊離硝酸の規定に依らず,ドップラー反応度係数として,

約-5e-5 Δk/k/℃,を得た。

 (b) 体積膨張による反応度

  上記の数密度,及び容器のSUS(厚さ0.3cm),容器回りの冷却水(厚さ2.2cm),空

 気を考慮した3次元計算により算出(JENDL-3.2ベース)。

 SUSの数密度は理科年表記載のSUS304の代表値から算出した。

 計算にはMVPを用い,溶液密度の300K(1.54171g/cc)と350K(1.51039g/cc)での違

 いから溶液の体積の膨張を算出し,溶液内の数密度減少および液面高さ上昇を考慮した。

 (溶液密度の温度による変化割合は水で計算してもほぼ同じ値になった)

 溶液量の条件がはっきりしないため,42リットルおよび44リットルの2ケースにつ

 いて計算した。

  計算結果として,体積膨張による反応度として,約-1.1e-4Δk/k/℃,を得た。

 以上から,温度反応度係数としては,合計約-1.6e-4Δk/k/℃となった。

(5) 動特性解析モデル

 動特性パラメータは,濃縮ウランを燃料とする小型炉の代表値を使用した。

・遅発中性子生成割合:0.000305,0.00164,0.0015,0.00324,0.00102, 0.000207

合計=β=0.007912

・先行核崩壊定数:0.0127,0.0317,0.115,0.311,1.4,3.87 (1/sec)

・中性子生成時間:6.70E-05 sec

温度フィードバック関連の定数としては,

・定圧モル比熱 0.6284(cal/g-solution)

・溶液初期温度 25℃

温度フィードバックは,他の機関で考慮されているバーストに伴う機械的エネルギーを逆に無視し,すべての反応度が静的に,ドップラーと熱膨張で打ち消されるというモデルを考えた。発生した熱は時間遅れなく容器の隅々にまで行き渡り,温度は均一であると仮定した。また,断熱近似を仮定した。よって,バースト発生後に溶液温度が下がり,正の反応度フィードバックで再臨界になる過程は扱えない。

3.5規定の溶液が瞬時に42リットルから44リットルに増え,1.43%Δk/kの余剰反応度がステップ状に投入されたものとした。

(6) 中性子線測定値からの出力推定

 硝酸ウラニル溶液の無限増倍率は約1.5となっていること,およびMVPによる3次元計算において容器から漏れる割合が約1/3であることから,体系外に漏れ出た中性子数は全体の1/3程度と考えられる。また線源から100m地点での測定値(0.45rem/h)は,空気による減衰により1/10になっていると考えた。rem/hとn/cm^2secとの換算係数については,MVPにより計算した空気層におけるスペクトルより2MeVでの値をそのまま使用することとした。100mの間での中性子の減速は考えていない。

3.解析結果I(冷却水の反応度効果)

 残留硝酸濃度3.5規定のケースについて,冷却材を完全に抜いた場合の実効増倍率を計算し,以下の結果を得た(硝酸ウラニル溶液量44リットル,100万ヒストリー)。

 ・冷却材あり    1.01467

 ・冷却材なし    0.97333

 ・冷却材反応度効果 0.0419

4.解析結果II(総核分裂量)

 動特性解析結果によるバースト出力時の核分裂量および,中性子線量線量測定値から推定したバースト以降の核分裂量は以下のようになった。また,総核分裂量はU-235重量で約1.5mgとなった。

(a) バースト出力時

   バースト発熱量(J)   核分裂数

    2.21e+7     6.91e+17(0.27mg U-235)

(b) バースト以降

   発熱量(J)       核分裂数

    9.6e+7     3e+18(1.2mg U-235)

(c) 合計

   発熱量(J)       核分裂数

    1.2e+8     3.7e+18(1.5mg U-235)

以上