親松RPD199(1999.11.12)

バーストとその後の低出力状態の核分裂数の比について

愛知淑徳大学

親松和浩

まえおき

以下は,炉物理部会メーリングリストに11月3日に投稿したメモです。

このメモ作成時には,報告書(「ウラン溶液分析結果報告」)を入手しておらず,

この報告書内の一部の数値だけを入手して大雑把な計算を行いました。

しかし,その後に入手したデータを使って計算し直しても結論が大幅に変わることは

ないので,一部の字句を変えた以外そのまま掲載します。

御参考になれば幸いです。

(注)以下で FP とは核分裂生成物(Fission Products)の略

 

目的

ウラン溶液中のFP放射能からバーストとその後の低出力状態の核分裂数の比を検討する

FP生成量を評価するための放射能データ

「ウラン溶液分析結果報告」(日本原子力研究所,平成11年10月27日)のAグループのFP放射能データ

結論

1) 全核分裂数

FP核種の生成量は,全核分裂数に強く依存する。

バーストのみで計算した関本先生(東工大)の値(ウラン16 kgあたり2e18 fissions)は,バースト以外の寄与がかなり大きくても,全核分裂数としてよい。

2) 比の値

FP核種の生成量は,出力(核分裂率)の時間変化にはあまり依存しない。

比の値の決定には,溶液外に放出された分も含めて,かなり正確なFP放射能データが必要である。残念ながら,上記のFP放射能データだけでは不十分であり,決定的なことは言えない。

問題点

今回の溶液分析データには,溶液外に放出されたFP放射能は含まれず,また溶液全体の平均値を与えているかどうかも不確かである。

なお,FP生成量計算で必要な核データ(核分裂収率,半減期)の不確かさは,上記FP放射能分析データの不確かさより,十分小さいとしてよい。

FP生成量の正確な分析データが必要なのは,タイムスケールからも分かる。

「事故発生後20日後に,半減期が2日以上のFPの生成量を手がかりにして,事故発生後17時間の出力の時間発展を調べる」

17時間/20日=3.5%,FP半減期 > 2日

モデル計算

http://www.aasa.ac.jp/people/oyak/JCOfissions.JPG または

http://oyamac9.nucl.nagoya-u.ac.jp/JCOfissions.JPG を参照

事故発生時のバーストの後,一定の核分裂率で17時間継続。

事故発生のバーストから20日後にFP生成量を測定。

全核分裂数 F=Fb+Fc

バーストの核分裂数:Fb,その後17時間の核分裂数 Fc

FP核種:Zr95, Mo99, Ru103, Ce144, I131, Cs137, Ba140

FPデータ:学会の崩壊熱推奨値計算用ライブラリー(JNDC version 2)

FPの崩壊系列を考慮したFP生成量計算を行う。中性子捕獲は無視。

 

バーストの定義の注意

例えば,

10分/17時間=1%h

なので,2回目以降のバーストが事故発生後10分程度で起きた場合には 今回のモデルでは,事故発生時のバーストに含めて考える。

 

核分裂数 Fb, Fcの推定法

事故発生から20日後のあるFPの全生成量(Nt)は

Nt=(バーストによる生成量)+(その後の核分裂による生成量)

つぎに,1回のfissionによるFP生成量をnbとかくと

(バーストによる生成量)= Fb*nb

1 fission/sの核分裂率が17時間継続した場合のFP生成量をncとかくと

(その後の核分裂による生成量)= Fc*nc/(17*60*60)

結局,各FPに対して,FbとFcに関する1次式が得る。

Nt = Fb*nb + Fc*nc/(17*60*60)

(定数Ntは放射能値から,係数のnbとncは総和計算法で計算)

放射能データのあるFP核種が7つなので,2つの未知数 Fb, Fcに対して,式が7本。

データの信頼度が不明なので,最小2乗法はやめて,(Fc, Fb)平面上の直線上の交点を捜すことにします。

 

結果の図(溶液1リットル当たりの核分裂数としてある)

http://www.aasa.ac.jp/people/oyak/Graph0.gif または

http://oyamac9.nucl.nagoya-u.ac.jp/Graph0.gif を参照

縦軸,横軸の切片が,それぞれバーストのみ,バースト無し場合の全核分裂数となる。いずれの値もあまり違わないので,全核分裂数についてはバーストのみの計算で十分であることが分かる。(ウラン16 kg,ウラン溶液濃度を278.9 g/lとすると全核分裂数は2e18となる)

なお,このグラフでは直線が左下にいくほど全核分裂数が小さくなる。

上記モデルでは7本の直線は1点で交わり,その交点の座標がFc, Fbとなる。

しかし,実際には直線の位置関係はかなりバラバラである。したがって今回用いた放射能データでは,Fc, Fbの値の決めることは難しい。

 

一応,参考までにグラフの交点の値を調べると以下のようになる。

case A :Ru103とBa140の交点

バースト以外は Fc/(Fb+Fc) = 20%

Case B:Zr95, Cs137, I131の交点

バースト以外は Fc/(Fb+Fc) = 55%

Case Bは3直線が交わっていて良さそうに見えるが,あまり信頼できない。

FPが外に逃げたため全核分裂数が小さくなったと考えられるからである。

(実際,I131は外で検出されておる。またZr95は溶液ろ過で一部減っている)

今回の計算は,以下のパソコン(Macintosh)用コードを用いた。

K. Oyamatsu, Easy-to-use Application Programs to Calculate Aggregate

Fission-Product Properties on Personal Computers, Proc. 1998 Symposium on

Nuclear Data, JAERI-Conf 99-002, pp. 234-239, 1999.

親松和浩

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