■放射能・放射線

放射能とは

  あらゆる物質は,細かく分けていくと,最終的には原子と呼ばれる小さな粒子にまで分けられます。この原子の中には,自発的に他の原子に変化する(この現象を「崩壊」あるいは「核変換」と呼ぶ)ものがあります。このような性質(能力と言ってもいいかもしれません)のことを「放射能」といいます。

   用例:放射能を帯びる,放射能が強い

  「放射能」は能力ですから,「放射能が出る」とか「放射能を浴びる」という言い方は不適切です。時々テレビや新聞などで誤用が見られますが,放射能は物ではありませんので,そういう言い方はまちがっていますのでご注意を。

放射線とは

  「放射能」を有した物質「放射性物質」が崩壊する際に放出される粒子や電磁波のことをまとめて「放射線」と呼びます。

放射線には,大きくわけると以下のような分類があります。

粒子の放射線 ベータ線(電子),中性子,アルファ線
電磁波の放射線 ガンマ線,エックス線

  放射線の種類により帯びている電気の量やエネルギーが異なり,被曝したときの人体への影響力も異なります。また,透過力や物質との反応の仕方も放射線により異なり,放射線から身を守る方法も放射線の種類に対応した方法を採らねばなりません。

放射線はどこにあるのか

  「放射線」は自然界にもともと存在する「自然放射線」と人工的に作られる「人工放射線」に分けられます。

  自然放射線は,自然の海水中や地中,そして食料などあらゆるところに存在する放射性物質から放出されていますから,地球上どこにでもあるといえます。その他,宇宙から地球上に降り注ぐもの(宇宙線と呼ぶ)もあります。居住地の高度など地理的な影響もあり,被曝量は住んでいる地域によって変化します。宇宙飛行士や飛行機の乗員は地上で働く人よりわずかですが多くの宇宙線にさらされているといえます。

  これに対し,人工放射線は主に工業や医療的な目的を持って作られた放射線です。例えば,原子力研究施設では研究目的のために様々な放射線源があり,また病院にはレントゲン撮影をするためのエックス線発生装置があります。こういった施設内ではたいてい自然放射線より強力な放射線を扱っていますが,施設外に放射性物質が漏れないよう(あるいは放射線が届かないよう)に厳しく管理されています。原爆実験などでまき散らされた放射性物質からの放射線も人工放射線の一つです。

人体への影響

  「放射線」の種類によって影響力が異なります。また,放射線を受けた身体の部位によっても影響の出やすさが異なります。例えば今回のJCO事故で問題となった中性子線は,電荷を持たないため他の放射線より原子核と反応を起こしやすく細胞への影響力が大きいとされています。しかしながら自然放射線のレベルでは人体への影響はありません。なぜなら,太古の昔から,人間を含めた生物は自然放射線の中で生活をしてきたからです。


■核分裂

核分裂とは

  物質を構成する最小単位は原子です。原子はさらに原子核と電子から出来ていま す。この原子核が二つに分かれることを核分裂といいます。核分裂の際に中性子線な どの放射線が放出されるとともに膨大なエネルギーが発生します。原子力発電所では ,このエネルギーを使って発電しています。

なにが起こすのか

  ある特定の種類の原子しか核分裂しません。一つの原子核はいくつかの陽子や中 性子から出来ていますが,これら陽子や中性子の数が多く重い原子核のなかには不安 定な状態であるものがあり核分裂します。例えば,一番軽くて安定な原子である水素 の原子核は陽子一つだけから出来ていますが,核分裂を起こしやすいウランの場合, 92個の陽子と141個以上の中性子から出来ています。

  例えば,ウランの場合,143個の中性子を持つウラン235(陽子92個と中性子143 個の数を合わせると235個)に中性子がぶつかると,不安定な状態となり,安定な状態になろうとして分裂をすることがあります。

 ウランの他に代表的な核分裂を起こす物質としてプルトニウム239があります。プル トニウム239の原子核は,94個の陽子と145個の中性子から出来ています。このプルトニウム 239 も中性子がぶつかると,ウラン 235 と同様に核分裂を起こします。

核分裂連鎖反応とは?

  たいていの核分裂性物質では,原子核が中性子を1個吸収して核分裂します。こ のとき,その原子核は分裂するとともに2個ないし3個の中性子を放出します。これらの中性子がさらに他のウラン235の原子核に吸収されれば,別の核分裂反応が起きます。このように核分裂中性子が次から次へと新たな核分裂反応を起こすことを核分裂連鎖反応と呼びます。


■臨界・臨界事故

臨界とはどういう状態か?

  核分裂連鎖反応を起こしている中性子の数が一定の(時間変化がない)状態をいいます。臨界状態が保たれる限り核分裂連鎖反応は持続します。臨界を越えている状態(「超臨界」と呼ぶ)では中性子の数が増加し核分裂反応も増加します。逆に,臨界に達していない状態(「未臨界」と呼ぶ)では中性子の数が減少し核分裂反応も減少していきます。

臨界になるための核分裂性物質の量を「臨界量」と呼びます。臨界量は,ウランやプルトニウムなどの核分裂性物質の種類や,固体か溶液かによっても異なります。

どうすれば臨界になるのか?

  未臨界状態から臨界にするためには,中性子が核分裂性物質に当たって核分裂が起きる確率を大きくしてやる必要があります。あるいは,核分裂の結果発生した中性子が無駄に外部に逃げないようにする方法があります。そのためには,核分裂性物質の量を増やすことと中性子が外に逃げて無駄にならないようにすることが必要です。

臨界事故とは?

臨界になるべき原子炉などの施設以外(核燃料製造工場や核燃料再処理工場など)において予期せず臨界になってしまう事故を臨界事故と呼びます。

核燃料製造工場や核燃料再処理工場などでは,以下の点で原子力発電所と大きく異なるため,臨界事故が絶対に起こらぬよう臨界管理を厳しく行うことになっています。

どうすれば臨界事故を防げるのか?

まずは,「臨界になるような量の物質を一カ所に集めない」ということになるでしょう。今回の JCO の事故では, 16 kg 程度のウランが沈殿槽に入れられて臨界に達してしまいました。ところが,沈殿槽に入れる前には 16 kg のウランがこの世に存在していても臨界ではなかったわけです。このことは,「臨界」となるには,その量だけではなく「どのような状態で存在しているか」も重要であることを示す例です。

「どのような状態で存在するか」という点に関して言えば,中性子が核分裂を起こす物質と反応をする前に逃げていってくれれば,核反応を起こす割合(確率)が減少するので,そういった形状の容器に入れておくことも有効な方法です。

臨界にしてはならない核燃料製造工場などでは,核分裂性物質が臨界量にならない よう計量管理され,また中性子が外に逃げて核分裂中性子が核分裂性物質に当たる確 率が小さくなるように容器の形状に工夫がされています。

原子炉と臨界

原子炉では,核分裂反応により所定のエネルギーが得られるように臨界を維持しています。商業用の原子力発電所の原子炉も研究用の小型の原子炉も,核分裂の割合(どれだけエネルギーを発生しているか)が違うだけで同じ臨界の状態で運転しているのです。

臨界=爆弾ではないか

広島や長崎に投下された原子爆弾は,臨界量以上の核分裂性物質が短時間に一気 に核分裂反応を起こして膨大なエネルギーを爆発的に発生するように設計されていま した。今回のJCOでの臨界事故では,臨界にはなりましたが,爆弾のような急激な核 分裂反応ではありませんでした。なお,発電所などの原子炉は,臨界状態をある所定 の割合で持続するように設計されています。


Last update: 2000/Jan/15